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成年後見に関する雑記帳

成年後見人の権限の、医療分野への転用

【目次】
 1.はじめに
 2.精神保健福祉法の「家族等」
 3.医療観察法の「保護者」
 4.予防接種法の「保護者」
 5.臨床試験の実施の基準に関する省令の「代諾者」
 6.おわりに
【凡例】民:民法
    精:精神保健福祉法
    医:医療観察法
    予:予防接種法
    臨:医薬品の臨床試験の実施に関する省令
【掲載】2017.04.03.

1.はじめに
 成年後見制度は民法で定められた制度で、後見人の権限も民法に規定されています。けれども成年後見は民法以外の法律にも広く転用されており、後見人の権限も民法の範囲を超えて認めらているものがあります。ここでは、主に医療に関する分野で、後見人が民法の定めとは別の役割を果たすことが求められるケースを確認して、整理してみたいと思います。

2.精神保健福祉法の「家族等」
(1)家族等の役割
 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)では、精神障害者の医療保護入院に関与する役割として、「家族等」の規定を設けています(医療保護入院については、こちらを参照)。成年後見人はこの家族等に含まれます。家族等に該当する者は、精神障害者の配偶者、親権を行う者、扶養義務者、成年後見人、保佐人とされています(精§33②)。家族等の間には就任の順位の定めはなく、該当者のいずれかが権限を行使することとされています。
 家族等の具体的な役割は、以下の通りです。
【家族等の役割】
① 精神障害者を医療保護入院させることについて、精神病院の管理者に同意できること(精§33①)
② 精神障害者を医療保護入院させるための移送に同意できること(精§34①)
③ 精神病院に入院中の者の退院・処遇改善を都道府県知事に請求できること(精§38の4)
④ 措置入院からの退院・仮退院者を引き取り、仮退院者の保護にあたっては当該病院の管理者の指示に従うこと(精§41)
⑤ 必要があれば、精神科病院の管理者が選任した退院後生活環境相談員に、退院後の生活環境に関し相談し、指導をさせること(精§33の4)

(2)家族等の沿革
 家族等は、平成26年の精神保健福祉法改正時に、従来の保護者制度に代わって定められたものです。
 その沿革は、明治33年に制定された精神病者監護法の監護義務者に遡ります。その後昭和25年に施行された精神衛生法では保護義務者、平成5年に改正された精神保健法で保護者と改称されました。
 役割も時代とともに変遷してきました。精神患者監護法では私宅監置制度への関与、精神衛生法では保護拘束制度への関与、精神保健法では自傷他害防止義務などが定められていました。役割は改正とともに徐々に縮小しており、平成26年の改正では、以下の権限が削除されました。
① 精神障害者に治療を受けさせること
② 精神障害者の財産上の利益を保護すること
③ 精神病患者の診断が正しく行われるよう医師に協力すること
④ 精神障害者に医療を受けさせるにあたっては、医師の指示に従うこと

3.医療観察法の「保護者」
 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(医療観察法)では、重大な他害行為に該当する犯罪行為(殺人・放火・強盗・強姦等)を行ったが、心神喪失等の理由で実刑にならなかった対象者に対して、適切な医療を提供して社会復帰を促進するための制度が定められています。対象者は地方裁判所の審判により、強制的に、治療に必要な期間、指定医療機関(精神科病院)に入院したり、保護観察所の監督下で通院したりして、社会復帰を目指します。
 後見人は、対象者の保護者とされています(医§23の2)。保護者の順位・役割は、以下の通りです。
【保護者の順位】
① 後見人又は保佐人
② 配偶者
③ 親権を行う者
④ 扶養義務者のうちから家庭裁判所が選任した者
※対象者の保護のため特に必要があると認めるときは、家庭裁判所は、利害関係人の申立てによりその順位を変更することができます。
【保護者の役割】
① 付添人の選任(医§30①)
② 意見の陳述、訴訟資料の作成提出(医§25②)
③ 審判期日への出席(医§31⑥)
④ 退院の許可の申立て(医§50)
⑤ 処遇終了の申立て(医§55)
⑥ 抗告及びその取下げ(医§64②・65) 等

4.予防接種法の「保護者」
 成年後見人は、予防接種法で対象者の保護者とされています。保護者の役割としては、定期の予防接種(以下のA類疾病にかかるもの)又は臨時の予防接種を受けさせるため必要な措置を講ずるよう努める義務があります(予§9・§2)。
【A類疾病】
① ジフテリア
② 百日せき
③ 急性灰白髄炎
④ 麻しん
⑤ 風しん
⑥ 日本脳炎
⑦ 破傷風
⑧ 結核
⑨ Hib感染症
⑩ 肺炎球菌感染症(小児がかかるものに限る。)
⑪ ヒトパピローマウイルス感染症
⑫ 前各号に掲げる疾病のほか、人から人に伝染することによるその発生及びまん延を予防するため、又はかかった場合の病状の程度が重篤になり、若しくは重篤になるおそれがあることからその発生及びまん延を予防するため特に予防接種を行う必要があると認められる疾病として政令で定める疾病

5.臨床試験の実施の基準に関する省令の「代諾者」
 成年後見人の権限が医療の分野に転用されるのは、法律に基づくものに限らず、省令によるものもあります。
 厚生労働省令である「医薬品の臨床試験の実施に関する省令」では、被験者の後見人を代諾者としています(臨§2)。
 そして代諾者の役割として、被験者となるべき者が同意の能力を欠くこと等により同意を得ることが困難であるときは、代諾者となるべき者の同意を得ることにより、被験者を治験に参加させることができると定めています(臨50②)。

6.おわりに
 今回は、成年後見人が民法以外の法律や省令によって、医療の分野に関与するケースを取り上げました。成年後見人には医療同意権や居所指定権はないと解されていますが、今回検討した規定には抵触するものも含まれます。成年後見人に就任する際にはこれらの役割が付与されるのだということも頭に入れておく必要がありそうです。

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