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成年後見に関する雑記帳

任意後見とあわせて利用できる制度

【目次】
 1.はじめに
 2.財産管理委任契約
 3.見守り契約
 4.遺言
 5.死後事務委任契約
 6.尊厳死宣言公正証書
 7.おわりに
【掲載】2016.12.02.

1.はじめに
 任意後見は、利用者(委任者)がまだしっかりしているうちに、判断力が低下したときに備えて、受任者との間で将来頼みたいことを定めておく制度です。けれども、利用者は受任者に対して将来判断力が低下したあとのことだけではなく、判断力が低下する前や、或いは死亡したあとのことについても依頼しておきたい事項がある場合が少なくありません。ここでは、任意後見契約を締結する際に、あわせて利用できる制度について確認し、整理してみたいと思います。

2.財産管理委任契約
 財産管理委任契約とは、受任者に対して、自分の財産の管理を管理する権限(代理権)を付与する契約です。任意後見契約は本人の判断力が低下したあとに発効しますが、財産管理委任契約を締結することによって、判断力が低下する以前から財産管理を頼むことができるようになります。
 財産管理委任契約を任意後見契約とあわせて契約する場合には、任意後見契約が発効すると同時に、財産管理委任契約が失効するという形態をとるのが一般的です。
 財産管理委任契約を任意後見契約とあわせて契約するケースでは、ひとつ問題点が指摘されています。それは、委任者の判断能力が低下したあとも、受任者が任意後見契約を発効する手続きを行わず、そのまま財産管理委任契約を継続し続けるケースが考えられることです。任意後見契約が発効すると、家庭裁判所は任意後見監督人を選任し、任意後見人は監督人の監督に服して業務を行うこととなります(財産管理委任契約は必ずしも監督人を置く必要がありません)。任意後見監督人から監督を受けることを快く思わない受任者が、任意後見契約を発効させず、判断力が低下した委任者との間で財産管理委任契約を継続し続けて、委任者の財産を不適切に利用したり、或いは横領したりするケースが散見されるようになりました。
 対策としては、財産管理委任契約を締結するときに第三者を関与させる方法や、財産管理委任契約を締結する時点から監督人を置く方法などが考えられます。

3.見守り契約
 見守り契約は、受任者が定期的に本人(委任者)の安否、心身の状態、生活の状況の確認をする契約です。任意後見受任者が適切な時期に任意後見契約を発効させる手続きをとることを目的とするものです。
 委任者と受任者との間に一定の関係を構築して置く効果があることから、任意後見契約を締結する際に、見守り契約を締結するケースは多く見受けられます。

4.遺言
 遺言とは、自分が亡くなったあとに備えて、身分上・財産上のことを書き残しておく制度のことです。任意後見契約は、本人が将来判断力を失った後のこと(ただし、あくまで本人が生きている間のこと)を定めておく制度です。任意後見契約締結時に、自らの死後のことについても決めておきたいときには、遺言もあわせてつくっておくことが有効です。
 遺言は一般的に、「自筆証書遺言」もしくは「公正証書遺言」のいずれかの方式によって作成されます。自筆証書遺言は、安価に作成できるメリットがありますが、紛失の恐れがあるというデメリットがあり、また本人の死後に検認の手続きを行う必要があります。公正証書遺言は、作成時に一定の費用がかかりますが、原本が公証役場に保管されるため紛失の恐れがなく、また本人の死後に検認の手続きを行う必要がありません。いずれを選択するかは遺言作成者の判断によりますが、それぞれのメリット・デメリットを検討した上で手続きを進めるのが良いと思います。
 任意後見契約は公正証書で作成することが要件となっており、私の事務所が関与するケースでは、任意後見契約とあわせて公正証書で遺言を作成しておくことが多いです。

5.死後事務委任契約
 死後事務委任契約とは、委任者が受任者に対して自分が死んだ後の事務を委託し代理権を付与する契約をのことです。死後の法的手続きは主に遺言により定めますが、遺言に定めるまでもない事務手続きについて、死後事務委任契約で定めておくこととなります。具体的には、葬儀・埋葬に関する事務、菩提寺・親族等への連絡、医療費・介護費等の債務弁済、家財道具・生活用品の処分などが挙げられます。
 委任契約は原則的に委任者又は受任者の死亡によって終了するため、死後事務を委任すること自体できないのではないかという考え方があります。しかし判例は、委任契約の当事者たる委任者と受任者との間で、「委任者の死亡によっても委任契約を終了させない旨の合意」をすることが可能としています(最高裁平成4年9月11日判決)。またその契約は、正当な事由がない限り、委任者が死亡した後に委任者の相続人が解除することはできないと解されています(高松高裁平成5年6月8日)。

6.尊厳死宣言公正証書
 尊厳死宣言公正証書とは、本人が自らの考えで尊厳死を望み、延命措置は差し控えてもらいたいという考えであることを、公正証書という形で残しておく制度です。任意後見契約を公正証書で作成する際に、尊厳死宣言公正証書をあわせて作成し、任意後見受任者に預けておくことがあります。

7.おわりに
 今回は、任意後見とあわせて利用できる制度を紹介しました。任意後見は様々な制度と組み合わせることが可能ですが、前提として各制度をきちんと理解しておくことが不可欠です。契約締結にあたっては、時間をかけてじっくり検討することが大切だと思います。

【参考文献】
「任意後見実務マニュアル(新日本法規出版)」

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