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成年後見に関する雑記帳

成年後見と死後事務

【目次】
 1.はじめに
 2.成年被後見人死亡後の成年後見人の権限
 3.その他の死後事務
 4.おわりに
【凡例】民:民法
    墓:墓地及び埋葬に関する法律
    戸:戸籍法
    後登:後見登記等に関する法律
【掲載】2016.11.02.

1.はじめに
 平成28年10月13日、成年後見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(以下、「改正法」といいます。)が施行され、改正された民法と家事事件手続法がスタートました。これに伴い、成年被後見人が死亡したあとに行う成年後見人の事務(以下、「死後事務」といいます。)に変更が生じています。ここでは、新しく定められた成年後見人の死後事務と、従来からの死後事務を確認して、整理してみたいと思います。

2.成年被後見人死亡後の成年後見人の権限(民§873の2)
 まずは、改正法施行に伴い新たに民法に定められた権限についてみてみます。
(1)死後事務を行うための要件
 以下の要件がすべて満たされる場合に、成年後見人に一定の死後事務を行うことが認められました。
①必要性があること
②相続人が相続財産を管理することができるに至るまでに限ること
 相続人に財産を引き渡す義務を履行できる状態になり、相続人が引き継ぎを受けることができる状態になった場合には、死後事務を行う権限を喪失します(民§870)。
③相続人の意思に反することが明らかでないこと
 相続人が一人でも明確に反対の意思を表示している場合は認められません。
④成年後見人であったこと
 保佐人、補助人には認められていません(包括的代理権が認められていないため)。
 以上4つの要件が整っている場合に死後事務を行うことができます。なお、成年後見人による死後事務の権限は、「家裁の許可を要することなく当然に認められる権限」と、「家裁の許可を要件として認められる権限」に分けられています。以下に、それぞれを整理・確認していきたいと思います。

(2)当然に後見人の権限とされる事項
①個々の相続財産の保存行為(§873の2一)
 具体例として、相続財産に属する債権につき、時効が迫っている場合の時効中断や、相続財産に属する建物に雨漏りがある場合の修繕などが挙げられます。
②相続財産に属する債務の弁済(§873の2二)
 弁済期の到来した債務に限るとされています。
 具体例として、入院していた場合の医療費や、居住していた居室の賃料などが挙げられます。

(3)家庭裁判所の許可を要する行為
①死体の火葬・埋葬に関する契約の締結(§873の2三)
 この権限の法的性質としては、成年後見人に遺体の引き取り及び火葬・埋葬などの義務を負わせたものではないと解されています。
 なお死亡地の市町村長は、死体の埋葬又は火葬を行う者がいないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村等がこれを行わなければならないとされています(墓§9)。市町村長が遺体の火葬等の義務を負う場合には、市町村長としては、成年後見人が火葬等を行うことができることを理由に、遺体の引き取りや火葬等を拒むことはできないと考えられています。
 納骨に関する契約は、本条の契約に準ずるものと解されています。
 葬儀に関する契約は、本条の契約に含まれないと解されています(公衆衛生上不可欠なわけではなく、法律上の義務として課されているものではないため)。
②相続財産の保存に必要な行為(§873の2三)
 相続財産全体の保存に必要な行為は、家庭裁判所の許可が必要とされました。上記(2)①との違いに注意が必要です。相続財産全体の保存に必要な行為とは、個々の相続財産の保存に直接つながるものではないが、これらの行為をしないと相続財産の総額が減少することになるため、全体としての相続財産の保存に必要な行為にあたり得るものです。
 具体例として、債務を弁済するための預貯金口座からの払戻し、成年後見人が管理していた成年被後見人所有にかかる動産の寄託契約の締結、成年被後見人の居室に関する電気・ガス・水道供給契約の締結等が挙げられます。
 家裁の許可を得ずに行った場合は、原則的に無権代理と同様、当該行為の効果は相続人に帰属しません。但し、応急処分(民§874・654)や事務管理(民§697)に該当する場合には、許容されると解されます。
 また、法定単純承認との関係で、成年後見人が死後事務として相続財産の処分を行った際に、これが相続人について法定単純承認の効果を生じてしまうのではないかという問題がありますが、この点については、「成年後見人は相続人に代わって死後事務を行うものとはいえ、相続放棄等をする権限は有していないため、成年後見人が死後事務として相続財産の処分等をしたとしても、相続人につき法定単純承認の効果は生じない」と解されます。

3.その他の死後事務
 次に、改正法施行以前から成年後見人の死後事務として認められてきたものをみてみます。
(1)財産引継義務
 成年後見人は、成年後見人の死亡後2ヶ月以内に管理の計算をし、相続人に成年被後見人の財産を引き渡す義務を負います(民§870)。
(2)死亡届(戸§87②)
 後見人、保佐人、補助人及び任意後見人は、死亡届を提出することができます。
(3)後見終了登記申請(後登§8①)
 成年後見人等は、成年被後見人等が死亡したことを知ったときは、終了の登記を申請しなければなりません。
(4)応急処分義務・事務管理
 その他、被後見人の死亡後に行う事務は、応急処分義務・事務管理の法理が適用されます。成年後見人の地位で行う事務として応急処分義務があり、(民§874・654)、成年後見人の職務の範囲外の行為については事務管理によることと解されています(民§697)。
 改正法によっても、「従前から存在する応急処分や事務管理の規定に基づいて死後事務を行うことは否定されるものではない」とされてます(民§874・654・697)。

4.おわりに
 平成28年5月13日に施行された成年後見制度利用促進法では、死後事務について、「成年被後見人等の死亡後における事務が適切に処理されるよう、成年後見人等の事務の範囲について検討を加え、必要な見直しを行うこと」と定められました(促§11三)。改正法で網羅されなかった死後事務についてどのような検討・見直しがなされるか、注目されるところです。

【参考文献】
「成年後見の事務の円滑を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律の逐条解説(民事月報vol71 No7)」
「成年後見における死後の事務(日本加除出版)」

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