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成年後見に関する雑記帳

成年後見と生活保護

【目次】
 1.成年後見と公法上の行為
 2.生活保護法
 3.厚生労働省の見解
 4.日本弁護士連合会の見解
 5.成年後見人の生活保護申請への関与
【凡例】戸:戸籍法
    保:生活保護法
【掲載】2016.10.01.

1.成年後見と公法上の行為
 成年後見制度は民法に定められた制度です。そのため成年後見人の代理権は私法上の行為にのみ及び、公法上の行為には及ばないという考え方があります。公法上の行為とは、例えば戸籍や住民票に関する手続き、公的年金に関する手続き、税務申告、登記申請、訴訟などがあります。
 ただし、実務ではこの考え方は必ずしも厳格に適用されているわけではありません。
 公法上の行為であっても、成年後見人であれば当然に代理権の範囲に含まれると解されているものもあります。例えば不動産登記の手続きは、成年後見人は被後見人の代理人として申請することができます(保佐人、補助人の場合は、家庭裁判所が代理権の範囲に「登記手続きに関する件」を認める審判をしていれば代理人として申請可能です)。
 また民法とは別の法律により、成年後見人の権限として認められているものもあります。例えば戸籍法の定めにより、被後見人が死亡したときに、成年後見人は死亡届を役場に提出することができます(戸§87②)。
 では、生活保護申請はどうなのでしょうか。

2.生活保護法
 生活保護申請は、生活保護法に定められている手続きで、公法上の行為です。まずは生活保護法の条文を確認してみましょう。


第7条(申請保護の原則)
保護は、要保護者、その扶養義務者又はその他の同居の親族の申請に基づいて開始するものとする。但し、要保護者が急迫した状況にあるときは、保護の申請がなくても必要な保護を行うことができる。
第25条(職権による保護の開始及び変更)
保護の実施機関は、要保護者が急迫した状況にあるときは、すみやかに、職権をもって保護の種類、程度及び方法を決定し、保護を開始しなければならない。


 生活保護は原則的に申請に基づき開始するものとしています。そして保護開始を申請できる者は、①要保護者、②扶養義務者、③同居の親族に限定しています(保§7)。また要保護者が急迫した状況にあるときは、保護開始の申請がなくても保護実施機関による職権で保護を開始することとされています(保§25)。なお、生活保護法では代理申請に関する規定はありません。

3.厚生労働省の見解
 では、保護開始の申請を代理人が行うことはできないのでしょうか。厚生労働省が見解を公表していますのでみてみましょう。


【生活保護手帳別冊問答集2016(中央法規)】
 民法における代理とは、代理人が、代理権の範囲で、代理人自身の判断でいかなる法律行為をするかを決め、意思表示を行うものとされている。これに対して生活保護の申請は、本人の意思に基づくものであることを大原則としている。このことは、仮に要保護状態にあったとしても生活保護の申請をするかしないかの判断を行うのはあくまで本人であるということを意味しており、代理人が判断すべきものではない。また、要保護者本人に十分な意思能力がない場合にあって、急迫した状況にあると認められる場合には法第25条の規定により、実施機関は職権をもって保護の種類、程度及び方法を決定し、保護を開始しなくてはならないこととなっている。
 以上のことから代理人による保護申請は馴染まないものと解することができる。
 なお、本人が自らの意思で記載した申請書を代理人が持参した場合については、これは代理ではなく、使者として捉えるべきであり、そこで行われた申請は有効となるので留意が必要である。


 このように厚生労働省は、保護開始の代理申請を否定しています。要保護者に十分な意思能力がない場合については申請ではなく職権による開始によるべきとしていることから、任意代理人による申請のみならず、成年後見人等の法定代理人による代理申請も否定していることとなります。

4.日本弁護士連合会の見解
 これに対して、日本弁護士連合会は真逆の見解をホームページで公表しています。以下にみてみたいとおもいます。


【日本弁護士連合会ホームページより(抜粋)】
 生活保護を受給するためには、原則として、生活に困窮する方や、その扶養義務者ないし同居の親族が福祉事務所に申請(保護開始申請)をすることが必要です。弁護士が、この保護開始申請の代理業務を行っています。
 生活保護受給中に生活状況が変わった場合、月々の生活保護費とは別に、一時的に支給される保護費(例えば転居費用、通院交通費等)がありますが、これらも原則として保護受給中の方からの申請(保護変更申請)によって支給されます。弁護士が、この変更申請の代理業務を行っています。
 生活保護受給中には、指導指示が行われることがあります。
 例えば、持つことを認められた自動車を他の目的に一切使用しないようになどといった内容です。このような指導指示に反した場合、弁明の機会が設けられた上で生活保護の停止や廃止となる場合もあります。
 弁護士が、違法・不当な指導指示に対しては、指導指示を撤回するように交渉したり、弁明の機会に一緒に出席して意見を述べたりすることもあります。
 また、財産や、お金を請求する権利を持っていてもそれが現金の形になっていない時点で生活保護を受給した場合、後でその財産や権利が現金の形になったときに、それまでに支給された保護費を返還するように言われることがあります。
 この返還額決定の前に、自立更生のためにご本人の手元に残すべき金額がないかどうか検討する必要があるのですが、そのような検討がされずに無理な返還を求められている場合などに、弁護士が返還額の減額や返還方法についての交渉を行うこともあります。


 このように日弁連は、保護開始申請を代理人が行うことを肯定する見解を公表しています。但しここで日弁連が述べているのは弁護士が要保護者から委任を受けて代理申請を行う場合についてであり、成年後見人等の法定代理人による申請について述べているわけではないことには注意が必要です。

5.成年後見人の生活保護申請への関与
 生活保護法で代理人による申請の規定が定められておらず、また、厚生労働省により代理人による申請が否定されている状況で、成年後見人は被後見人が要保護状態になった場合、どのように保護開始に繋げているのでしょうか。
 被後見人にある程度意思能力が認められる場合には、被後見人自身が申請人となり、成年後見人が被後見人に同行して福祉事務所を訪れて申請することが多いのではないでしょうか。また、上記「生活保護別冊問答2016」の最後に記載されている「本人が自らの意思で記載した申請書を代理人が持参する」方法をとることも少なくありません。
 問題は被後見人に意思能力が認められない場合で、この場合は本来であれば成年後見人から福祉事務所に通報し、福祉事務所の職権により保護が開始されることになるのでしょう。しかし現実には職権による保護開始はレアケースです。上記意思能力が認められる場合の方法を弾力的に運用しているのが実情かと思われます。
 なお、生活保護開始に伴い発行される保護開始決定書については、比較的多くの福祉事務所で成年後見人等の法定代理人に送付する運用を認めています。

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