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成年後見に関する雑記帳

認知症高齢者と不法行為責任

【目次】
 1.はじめに
 2.条文の確認
 3.精神障害者の監督義務者
 4.法定の監督義務者に準ずべき者
 5.おわりに
【凡例】民:民法
    精:精神保健福祉法
【掲載】2016.09.01.

1.はじめに
 平成28年3月1日、認知症高齢者の鉄道事故についての最高裁判決が出て、メディアでも大きく取り上げられ注目を集めました(最判平成26年(受)第1434号,1435号)。認知症を患って徘徊癖のある高齢者が、家族が目を離した隙に家から抜け出して、JRの駅から線路に踏み入り列車に轢かれて死亡した事故で、JRが遺族に対して振替輸送費用等の損害賠償を求めた裁判でした。概要はこちらで、判決全文はこちらで見ることができます。
 認知症高齢者の加害行為で誰かに被害を与えてしまった場合に、加害者の家族や関係者は、本人に代わって被害者に対して損害を賠償しなくてはならないのでしょうか。このたびの判決では、そのようなケースでこれまで法律の解釈が曖昧だった部分について判断基準を示しました。ここではその内容を確認して整理してみたいと思います。まずは法律の確認からいってみましょう。

2.条文の確認
 故意又は過失により他人の権利を侵害して損害を与えた人は、相手に対してその損害を賠償しなければなりません(民§709)。
 けれども、未成年者や精神上障害を抱えるものは、責任無能力者として損害を賠償しなくてよい場合があります(民§712、713)。
 この場合、責任無能力者の監督義務者は、加害者に代わって被害者に損害を賠償する責任が生じることがあります(民§714)。監督義務者は、責任無能力者への監督義務を果たしていれば責任を免れますが、果たしていなければ賠償責任を負うこととされているのです。
 未成年者が加害者の場合には、親権者や未成年後見人は監督義務者に当たるとされています。
 では、精神障害者(ここでは認知症高齢者を含みます。)の場合はどうでしょうか。今回の判決で示された基準をみてみましょう。

3.精神障害者の監督義務者
 今回の判決では、精神障害者の家族や成年後見人が監督義務者に当たるかどうかの判断基準が示されました。
(1)同居の配偶者
 精神障害者と同居する配偶者であるからといって、法定監督義務者に当たるとすることはできないとされました。理由は、民法で定める夫婦の同居・協力・扶助義務(民§752)が責任無能力者の監督義務を定めたものということはできず、また、その他に夫婦の一方が相手方の法定監督義務者であるとする実定法上の根拠が見当たらないため、としています。
(2)精神保健福祉法の保護者
 精神保健福祉法の保護者制度は平成26年の法改正により廃止されましたが、この事件が起きた当時にはまだ存続していました。判決では保護者について、保護者であることだけでは直ちに法定の監督義務者に該当するということはできないとされました。理由は、保護者の精神障害者に対する自傷他害防止義務が、平成11年の法改正で事件当時には既に廃止されていたためとしています(精:旧§20)。
(3)成年後見人
 成年後見人については、成年後見人であるということだけでは直ちに法定の監督義務者に該当するということはできないとされました。理由は、平成12年の民法改正で後見人の療養看護義務が廃止され、身上配慮義務に改められたためとされています(民§858)。

4.法定の監督義務者に準ずべき者
 判決では配偶者、保護者、成年後見人が監督義務者に該当することを否定しました。しかし法定の監督義務者に該当しない者であっても、法定の監督義務者に準ずべき者として、民法714条に基づく損害賠償責任を問うことができる場合があるとしました。
 それはどのような場合かというと、「監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合」であるとし、具体的には、「責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし、第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどの場合」であるとしました。
 そして、法定の監督義務者に準ずべき者に当たるかどうかは、「諸般の事情を考慮して、その者が精神障害者を現に監督しているか、あるいは監督することが可能かつ容易であるかなど、公平の見地からその者に対し精神障害者の行為にかかる責任を問うのが相当といえる客観的状況が認められるか否かという観点から判断すべき」とし、諸般の事情として以下の6つの具体例を示しました。
① その者と自身の生活状況や心身の状況など
② 精神障害者との親族関係の有無・濃淡
③ 同居の有無その他の日常的な接触の程度
④ 精神障害者の財産管理への関与の状況などその者と精神障害者との関わりの実情
⑤ 精神障害者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容
⑥ これらに対応して行われている監護や介護の実態

5.おわりに
 今回の判決で、未成年者の親権者や未成年後見人と異なり、精神障害者の家族や成年後見人は直ちに監督義務者とはならないと判断されたことは画期的だと評価されています。
 また、監督義務者に準ずる者とされる場合についても、一律に判断するわけではなく、諸般の事情を考慮して公平の見地から判断すべきとしたことも、評価されています。
 成年後見人が職務を行うにあたっては、被後見人との接触の程度によって、損害賠償責任が生じる可能性がないわけではないことを認識しておく方がよさそうです

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