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成年後見に関する雑記帳

成年後見と未成年後見

【目次】
 1.はじめに
 2.成年後見・未成年後見の開始
 3.後見人選任の時期
 4.未成年後見と児童福祉法
 5.後見人の人数
 6.後見人の権限
 7.公示
 8.成年後見・未成年後見の終了
 9.おわりに
【凡例】民:民法
    児:児童福祉法
【掲載】2016.07.04.

1.はじめに

 成年後見と未成年後見は、言葉は似ていますが、実はその制度の内容にはかなり違いがあります。未成年後見は親権を補充する制度と解されていて、成年後見よりはむしろ親権に類似点の多い制度と言えます。ここでは、成年後見と未成年後見の基本をおさらいして、その違いを比較検討し、整理してみたいと思います。なお、ここでいう「成年後見」は、法定後見の中の狭義の後見類型を指すものとし、保佐・補助・任意後見については検討の対象外とします。

 

2.成年後見・未成年後見の開始

 成年後見は、本人が精神上の障がいにより事理を弁識する能力を欠く状況にあるときに、家庭裁判所が後見開始の審判をすることにより開始します(民§7838二)。

 これに対し、未成年後見が開始するケースはふたつありあます(民§838一)。

 ひとつめは、未成年者に対して親権を行うものがないときです。具体的には、親権者が死亡した場合、親権者が長期にわたる生死不明や行方不明の場合、親権者が服役中の場合、家庭裁判所により親権喪失の審判がなされる場合、親権者が家庭裁判所の許可を得て辞任する場合などがあります。

 ふたつめは、親権を行うものが管理権を有しないときに開始します。具体的には、家庭裁判所により管理権喪失宣告がなされる場合、親権者が家庭裁判所の許可を得て管理権を辞任する場合があります。

 ここでわかるのは、成年後見の開始は必ず家庭裁判所の審判が条件となっているのに対して、未成年後見の開始には必ずしも家庭裁判所が関与するとは限らないということです。むしろ、親権者の死亡や行方不明など、家庭裁判所が関与せずに開始するケースの方が多いと思われます。

 

3.後見人選任の時期

 成年後見では、後見人は家庭裁判所が選任します。これに対し、未成年後見では、後見人は、家庭裁判所が選任する方法と、最後に親権を行う者が遺言で指定する方法との2通りの選任方法があります。ここでは裁判所が選任するケースについて、成年後見と未成年後見との違いをみてみたいと思います。

 成年後見の場合は、家庭裁判所が後見開始の審判をする際に、職権で後見人を選任します(民§843)。また、家庭裁判所は後見が開始した後も成年後見人を監督し、必要に応じて職権で新たな後見人を選任することも可能です。

 これに対して未成年後見は、そもそも未成年後見の開始に家庭裁判所が関与しない場合が多く、後見が開始していることを家庭裁判所が認知していないケースが発生します。また、家庭裁判所が職権で後見人を選任することはなく、後見人を選任するのは申立人から申立てがある場合に限られます(民§840)。

 ここでわかるのは、成年後見の場合は後見が開始していればほぼすべてのケースで後見人が選任されるのに対し、未成年後見の場合は後見が開始しても後見人が選任されないケースが発生するということです。では未成年後見が開始していながら後見人が選任されていない状況では、どのように制度が保持されているのでしょうか。

 

4.未成年後見と児童福祉法

 未成年後見の開始と未成年後見人の選任との間にタイムラグが生じるという民法の問題は、児童福祉法によって補われています。

 まず児童福祉法では、都道府県は、児童相談所からの報告のあった児童又はその保護者に対して、里親に委託したり、児童福祉施設へ入所させたり、家庭裁判所に送致する等の措置をとらなければならないとされています(児§27)。

 そして児童福祉施設の長は、入所中の児童で親権を行う者または未成年後見人がいない者に対し、親権を行なう者または未成年後見人があるに至るまでの間、親権を行なうとされています(児§47)。

 更に、児童福祉施設の長または里親は、入所中または受託中の児童で親権を行う者または未成年後見人のある者についても、監護、教育に関し、児童の福祉のため必要な措置をとることができるものとされています(児§47③)。

 また、児童相談所長は、親権を行う者のない児童等について、その福祉のため必要があるときは、家庭裁判所に対し未成年後見人の選任を請求しなければならないとされています(児§338)。

 このように、未成年後見が開始したが後見人が選ばれていない状況では、児童福祉施設の長と里親がその役割を担い、必要があれば児童相談所長等が家庭裁判所に後見人選任を申し立てる、という構造になっています。

 

5.後見人の人数

 成年後見も未成年後見も、後見人は一人もしくは複数名選任することが可能です。後見人が複数名ある場合は、成年後見と未成年後見とで権限行使の方法が異なります。

 成年後見人が複数名ある場合は、原則的に各自が後見人の権限を行使します。但し、家庭裁判所は職権で、後見人が共同で権限を行使しなければならない旨を定めたり、あるいは職務を分掌して権限を行使することを定めることがあります(民§8592)。

 未成年後見人が複数ある場合は、親権と同じく、原則的に共同で権限を行使します。但し、家庭裁判所は職権で、一部の者について財産に関する権限のみを行使する旨を定めたり、各自が単独で権限を行使できる旨を定めたり、あるいは職務を分掌して権限を行使することを定めることがあります(民§8572)。

 

6.後見人の権限

 次に、後見人の権限について、成年後見と未成年後見との違いをみてゆきたいと思います。

1)身上監護権

 成年後見では、後見人が後見業務を行う際に、「成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その身上の状態及び生活の状況に配慮しなければならない」とし、後見人に身上配慮義務を課しています(民§858)。これに対し、未成年後見では、後見人は親権者と同様、「被後見人を監護教育する権利を有し義務を負う」とし、後見人に教育監護権を付与しています(民§857820)。つまり、身上監護に関する権限については、成年後見人よりも未成年後見人に強力かつ広範な権限が認められていることとなります。未成年後見人には、親権者と同じく、未成年者を文字通り教育して育てる権利と義務が備わっていることとなります。

 また、未成年後見人は未成年被後見人の法定の監督義務者という立場となり、未成年被後見人が第三者に違法な行為によって損害を生じさせた場合には、未成年後見人がその監督を怠らなかったことを証明できないと、未成年後見人が賠償責任を負うこととなります(民§714)。これに対し成年後見人は、「成年後見人であることだけでは直ちに法定の監督義務者に該当するということはできない」とされています(最高裁平成28年3月1日第三小法廷判決(事件番号:最高裁判所平成26年(受)第1434号,1435号・損害賠償請求事件))。

2)財産管理権(代理権・同意権・取消権)

 財産管理の代理については、成年後見人、未成年後見人とも共通の条文で「被後見人の財産を管理し、又、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する」と定められており、ともに代理権が付与されています(民§859)。

 同意権については、成年後見人には付与されていません。これに対し、未成年後見人には付与されています(民§5)。

 取消権については、成年後見人・未成年後見人ともに与されています。なお、成年被後見人による日常生活に関する行為は、取消の対象となりません(民§9但書)。また、未成年被後見人による単に権利を得たり義務を免れる行為、後見人が目的を定めて処分を許した財産の処分、営業を許された営業は、取消の対象となりません(民§5・6)

)居所指定権・居住用不動産の処分

 成年後見人には居所指定権がありませんが、未成年後見人には居所指定権が認められています(民§857821)。また、成年後見人が被後見人の居住用不動産を処分するためには家庭裁判所の許可を要しますが、未成年後見人が被後見人の居住用不動産を処分する際には家庭裁判所の許可は必要ありません(民§8593)。

)職業許可権

 未成年後見では、親権と同様、後見人に子が職業を営むことに対する許可権が付与されています(民§857・§823)。未成年者が職業に就くときには、その保護のために後見人の許可を得ることを条件としています。また、職業に耐えざる事跡があるときには、後見人は一度与えた許可を取り消したり、または制限することが可能です。
 これに対して、成年後見人には、職業許可権は付与されていません。

)親権代行

 未成年後見人は、未成年者が子をもうけた場合に、未成年者が婚姻していなければ、未成年者に代わってその親権を代行することとなります(民§867)。これは成年後見にはない規定です。

 

7.公示

 成年後見では、後見が開始され後見人が選任されると、法務局で登記されます。成年後見人の身分を証する書面としては、登記事項証明書があります。

 未成年後見では、後見人が選任されると未成年者の戸籍に記載されます。未成年後見人の身分を証する書面は、戸籍謄抄本(または記載事項証明書)となります。

 

8.成年後見・未成年後見の終了

 成年後見の終了事由は、後見開始事由の消滅と、本人の死亡です。

 未成年後見の終了事由は、成年後見の終了事由に加えて、未成年者の成年擬制、成年到達、養子縁組があった場合です。

 

9.おわりに

 以上、成年後見と未成年後見について、その異なる部分を中心にざっと振り返ってみました。両制度の間には、後見開始と後見人選任の過程、そして身上監護面における権限の部分で、大きな違いがあることがわかります。私たち司法書士が未成年後見人や未成年後見監督人に就任する機会も増えていますが、その際には改めて成年後見との違いを認識しておくことが大切かと思います。

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